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はじめに:失われる技術、迫る2030年の壁
あなたの現場では、ベテラン職人の技術をどのように若手に継承していますか?
建設業界は「2024年問題」「2025年問題」に続く問題として、「2030年問題」という大きな課題に直面しています。少子高齢化により、2030年には国内人口の三人に一人(30.8%)が65歳以上に達し、建設業においても深刻な労働力不足が予測されます。
最も深刻なのは、建設業で働く人の4人に1人が55歳以上のベテラン技能工であり、この世代が一斉に退職を迎えることで、長年培ってきた技術が失われる危機に直面していることです。国土交通省の試算では、このまま新規入職者の増加が進まなければ、2030年には就業者数が400万人、2040年には300万人を割り込む可能性も指摘されています。
本記事では、現場責任者の視点から、技術継承の課題とデジタル技術を活用した解決策について、具体的な事例を交えながら解説します。

2030年問題が現場にもたらす深刻な影響
大量退職による技術喪失の危機
2025年以降、いわゆる団塊の世代が75歳以上となり、建設現場を支えてきたベテラン技能工の大量退職が見込まれています。厚生労働省によると、建設業界の労働者のうち60歳以上が4分の1以上を占める一方で、29歳以下はわずか1割程度にとどまっています。
特に深刻なのが、若手への技術継承が間に合わないという点です。熟練工が持つ技能の多くは、現場での経験を通じて習得するものです。
例えば、
- – コンクリートの状態を見極める技術
- – 天候や季節に応じた作業効率の最適化
- – 安全な足場の組み方
- – 災害時の対応技術
これらの現場特有の技能は、マニュアル化が難しく、長年の経験によって培われるものです。しかし、若手の入職が少なく、技術を継承する時間が十分に確保できないという現実があります。
若手の離職率の高さが招く悪循環
国土交通省によると、建設業界の新卒入職者の3年以内離職率は大卒で約3割、高卒で約4~5割に達しており、製造業と比べて高卒者で約15ポイント、大卒者で約10ポイントも高い水準にあります。
せっかく採用しても人材が定着せず、若年層の労働力確保が進まない状況が続いています。現場では経験の浅い人材が短期間で離職してしまうため、育成コストが回収できず、技術継承のサイクルが回らないという悪循環に陥っています。
現場責任者の負担増加
人手不足により、現場責任者の業務負担が増加しています。新規入場者が来るたびに安全教育を実施し、作業手順を説明し、現場ルールを周知する必要があります。この「教育・説明業務」が現場責任者の時間を奪い、本来の施工管理業務に支障をきたすケースも少なくありません。
特に、1人現場や小規模現場では、現場責任者が新規入場者教育を行っている間、現場が完全にストップしてしまうという問題があります。

デジタル技術による技術継承の新しいアプローチ
ICT・DX技術が可能にする技術の見える化
建設業におけるICT・DX技術の活用は、技術継承の課題を解決する有効な手段です。国土交通省も「i-Construction」や「インフラ分野のDX」を推進し、デジタル技術を活用した現場の変革と生産性向上を目指しています。
デジタル技術を活用した技術継承の取り組みとしては、以下のようなものがあります。
作業記録のデジタル化
- – 熟練工の作業を動画で記録
- – 作業内容を3Dデータ化
- – データベースとして保存・活用
VR技術の活用
- – 仮想現実で作業環境を再現
- – 若手技能者の訓練に活用
- – 危険な作業も安全に体験可能
AI技術の導入
- – 熟練工の作業を数値化
- – 技能のポイントを見える化
- – データに基づく効率的な指導
動画マニュアルによる教育の標準化
従来、建設現場の教育は、現場責任者や先輩職人が口頭で説明する「属人的」な方法が中心でした。
しかし、この方法には以下の課題がありました。
- – 説明する人によって内容にバラつきが生じる
- – 説明に時間がかかり、現場の稼働率が低下する
- – 外国人労働者への説明が困難
- – 説明内容の記録が残らない
動画マニュアルを活用することで、これらの課題を解決できます。
- – 説明内容が標準化され、品質が均一になる
- – 繰り返し視聴できるため、理解度が向上する
- – 多言語対応により、外国人労働者にも理解しやすい
- – 視聴記録を管理できる
現場で実際に使えるツールの選び方
現場でデジタルツールを導入する際、重要なのは「使いやすさ」です。いくら高機能でも、操作が複雑で現場で使いこなせなければ意味がありません。
現場責任者がツールを選ぶ際のポイント
- 1. 既存資産(PowerPointなど)が活用できる
- 2. 専門知識不要で誰でも使える
- 3. 短時間で動画が作成できる
- 4. 多言語対応が可能
- 5. ネット環境がない現場でも使える(オフライン対応)

実践事例1 株式会社大林組の取り組み―年間1万6,000時間削減の衝撃
大林組のDX推進戦略
大林組と大林グループは、デジタル化を核とした新たな業務プロセスの実現やDXによるビジネスモデルの革新、それを支えるデジタル基盤変革を推進するため、社長直轄の本部組織として2022年に「DX本部」を設置しました。
同社DX本部本部長室デジタル教育課の倉形直樹課長は、背景にある三つの課題について次のように説明しています。
「一つ目は24年4月から建設業でも時間外労働の上限規制が適用されること。長時間労働の是正が急務です。二つ目の建設業就業者数の減少については、労働集約型の建設手法を抜本的に見直して新たな手法を見いださないと、当社のビジネスモデルの存続自体が難しくなってくるだろうという危機感があります。最後の属人化の課題においては、主力世代の引退に伴って多くの知識や技工が失われていく懸念があり、知識や技術の体系化と継承が非常に重要になっています。この三つの課題に直面する中で、一層の生産性の向上を図るための一つの手段がデジタルです」
新規入場者教育への動画導入で年間1万6,000時間削減
大林組では、新規入場者教育(研修)にPIP-Makerを導入し、驚異的な効果を上げています。従来は、事務局からの案内や研修の注意事項説明などを全てリアルで行っていたため、研修担当者がその時間その場に常にいなくてはならず、内容をスムーズに伝えられるように事前の予行演習に時間を割く必要がありました。
PIP-Makerによる動画化により、これらの「時間の壁」を克服。新規入場者教育の年間コストを1万6,000時間以上削減することに成功しました。
新規入場者教育の年間コストを1万6000時間以上削減した建設業DXの“切り札”とは
現場で使える実践的な活用方法
大林組の事例から学べる、現場で実践できるポイント
- 1. 既存のPowerPoint資料を活用 – 新たに資料を作り直す必要がない
- 2. 3Dアバターによる解説 – 視覚的にわかりやすく、集中して視聴できる
- 3. QRコードで簡単共有 – スマートフォンですぐに視聴可能
- 4. 繰り返し視聴可能 – 理解できるまで何度でも確認できる
実践事例2 株式会社青木あすなろ建設の取り組み―多言語対応で外国人労働者の理解度向上
外国人労働者の増加と教育の課題
建設現場で外国人労働者が増加する中、安全確保や品質担保のために必要な内容を日本語以外の言語で説明する場面が増加しました。しかし対応できる人員の確保が困難になり、新規入場者教育では日本語に慣れていない外国人作業員が研修内容を深く理解できていないという課題がありました。
青木あすなろ建設では、毎年4月に入社する留学生に加え、スリランカやフィリピンでの現地採用を通じて海外技術者の採用・育成に力を入れています。そうした中で、限られた人員で効率的に教育を進めること、そして安全に関わる重要な情報を確実に伝えることの両立が大きな課題となっていました。
母国語での教育が理解度を劇的に向上
PIP-Makerの多言語対応機能を活用し、英語・ベトナム語・タガログ語バージョンの動画を作成しました。建設現場では正しく理解していないと危険につながるため、慣れない日本語よりも母国語でしっかり理解してもらう方針に転換したのです。
導入後、受講生からは「口頭よりも動画の方が理解しやすく伝わりやすい」という感想が届き、理解度が大幅に向上しました。また、新規入場者教育を主任や所長が説明する手間と時間を省けるようになり、他の業務に充てられる時間を確保できるようになりました。動画はMP4形式で共有されており、インターネット環境がない現場でも活用できる体制を整えています。
自然な日本語音声による日本語教育
社員として採用された外国人技術者の教育には、誤ったイントネーションの日本語を覚えさせないよう配慮しています。PIP-Makerの合成音声は非常に自然な日本語で聞き取りやすく、一般的な動画投稿サイトに見られる不自然なAI音声とは異なります。
管理本部海外技術者育成就労支援室の尾花様は「来日したばかりの外国人社員に誤ったイントネーションの日本語を覚えさせたくないため、この点は非常に助かっています」とコメントされています。実際に受講した外国人社員からも「動画でかみ砕いた説明を聞けるので、理解しやすい」という声が寄せられており、日本語教育教材としても高い効果を発揮しています。
外国人技術者向けに、PIP-Makerで作成した研修動画を視聴している様子。
母国語に近い自然な発話で伝わる。高品質な多言語対応機能で外国人財教育を支援するPIP-Maker
現場責任者が明日からできる実践ステップ
まずは新規入場者教育から始める
現場でDXを推進する際、最も効果が出やすいのが「新規入場者教育の動画化」です。理由は以下の通りです。
- 1. 繰り返し発生する作業である – 投資対効果が高い
- 2. 内容が標準化しやすい – 動画化に適している
- 3. 効果が測定しやすい – 時間削減効果が明確
既存のPowerPoint資料を活用する
多くの現場では、すでにPowerPointで作成された教育資料があります。PIP-Makerなら、この既存資料をそのまま活用して、最短5分で動画が作成できます。
作成手順は簡単です。
- 1. PowerPointファイルをアップロード
- 2. アバターと音声を選択
- 3. 動画を公開
専門知識や撮影・録音は一切不要です。
段階的に展開する
いきなり全ての教育を動画化しようとすると、負担が大きくなります。まずは以下のステップで段階的に進めましょう。
ステップ1:新規入場者教育を動画化
- – 最も繰り返し発生する教育から始める
- – 効果を測定し、改善点を洗い出す
ステップ2:安全教育を動画化
- – 季節ごとの注意点や法改正の内容を動画で共有
- – クイズ機能を活用して理解度を確認
ステップ3:技術研修を動画化
- – ベテラン職人の技術を動画で記録
- – 若手の育成に活用
ステップ4:多言語対応を進める
- – 外国人労働者が増えてきたら多言語版を作成
- – 母国語での教育で理解度を向上
ネット環境がない現場への対応
建設現場には、必ずしもネット環境があるわけではありません。特に、更地に建設する場合などは、通信自体ができない場合もあります。
PIP-Makerでは、動画をMP4形式でダウンロードできるため、ネット環境がない現場でも以下の方法で活用できます。
- – 動画をダウンロードしてUSBメモリで共有
- – タブレットに事前にダウンロードして現場で視聴
- – メールやチャットで動画ファイルを送信
まとめ:技術継承とDXで2030年問題を乗り越える
建設業界は現在、2030年問題という大きな課題に直面しています。2030年には国内人口の三人に一人が65歳以上に達し、建設業においても深刻な労働力不足が予測されます。
最も深刻なのは、建設業で働く人の4人に1人が55歳以上のベテラン技能工であり、この世代が一斉に退職を迎えることで、長年培ってきた技術が失われる危機に直面していることです。
この課題に対し、現場責任者ができる具体的な対策は、
- 1. デジタル技術を活用した技術継承 – 動画による作業記録とナレッジの共有
- 2. 新規入場者教育の効率化 – 動画化による時間削減と品質向上
- 3. 多言語対応による外国人労働者の理解度向上 – 母国語での安全教育
- 4. 段階的なDX推進 – 効果の出やすい分野から始める
大林組の事例では、新規入場者教育の年間コストを1万6,000時間以上削減することに成功しました。青木あすなろ建設では、多言語対応により外国人労働者の理解度が大幅に向上し、「口頭よりも動画の方が、理解しやすく伝わりやすい」という評価を得ています。
これらの事例が示すように、PIP-Makerなどのデジタルツールを活用することで、技術継承の課題を解決しながら、大幅な業務効率化を実現できることが実証されています。
2030年問題は、もはや待ったなしの課題です。現場責任者として、今からできることから始め、技術継承とDX推進を両輪として進めることが、現場の未来を支える鍵となります。
参考資料
- – 内閣府「令和6年版高齢社会白書」
- – 国土交通省「建設業を巡る現状と課題」
- – 国土交通省「建設業の働き方として目指していくべき方向性」
- – 厚生労働省「建設業」
